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向日葵の咲かない夏

ミカは嬉しそうに口をあけた。S君の身体は、その中に消えた。


これは名言というよりは、物語の転換点となった場面。このシーンに到達したとき「あれ?」と思って数ページ戻った人が大勢いるはず。

このシーンが一番最初の大きなネタバラシ。ここから、今までの伏線と分からなかった伏線の壮大な回収劇が始まりました。

道尾秀介さんの著作はどんでん返しモノが多い。

「龍神の雨」「獏の檻」「片眼の猿」「シャドウ」...。それらの物語も(特に終盤が)面白い。ただ、その中でも「向日葵の咲かない夏」は別格。

伏線の数が半端じゃない。前半で見えていた世界と比べたとき、後半のネタバラシで見える世界はまさに別世界。叙述トリックによるミスリード、からの全てがつながったときの雷に打たれたような衝撃が爽快です。

叙述トリックが光るこの作品は、”絶対に”映像化できません。マンガ、映画、アニメ。全て無理。この物語を楽しむためには小説でなければいけない。小説ならではの叙述トリックの魅力、というか道尾秀介さんのこの技を一度味わってみても損はしないはず。

「気持ち悪い...」という感想も多く見かける。ただ、この物語をその一言で片づけるのはもったいない。「テーマが暗いこと」と「小説家としての腕」は、いっしょくたに評価することはできませんので。

自分自身に(良い)影響を与えてくれる小説に、これまでもたびたび出会ってきた。この作品もその内の一つ。というか、自分の中ではこの小説が過去一、一等賞ですね。



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